第1章

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 楸が初めて閉じていた目を開いた。魔力を秘めた輝く瞳に、俺の心は瞬く間に惑わされた。楸の矛盾しつつ、 蠱惑的な体に肉体を重ね、少年のような手つきで探りながら、楸の心地良い場所を探した。  楸が囁く。 「私を抱いても、私を手に入れられるとは限らない」  そうだ。わかっている。絵画をいくら集めたとしても、描いた本人を手に入れられるわけではない。描いた 本人を抱いたとしても、その内側まで手に入れられるわけではない。それでも、手に入れずにはいられなかった。  あるはずのない魅惑の花と堅いつぼみに触れ、俺は少年のように小さな果実を口に含み、味わった。楸の青い熟していない果実が俺の舌の動きに反応してくる。  魅惑の花から蜜がしたたり、つぼみがほころび始める。  楸は初めてではないのだ、と俺は悟った。誰が楸の固い殻を砕き、その柔らかな実を最初に味わったのか知らない。それでも構わなかった。  楸という、この世にあり得ない神秘的な存在が俺の手の中にある。俺はこの夜と幾星霜もの夜を楸と過ごす。  果実からしたたる楸の味と花の蜜を口に満たし、つぼみが放つ淫奔な薫りで、この身を染める。  幾層も塗り込められたあらゆる色がごく薄い重なりを魅せながら、それでもその奥の本当の色彩を隠しているように、俺の体の下で深く息を吐く艶やかな仙果は実を落としても、内に秘めた種までは明かさない。それでも俺はこの仙果を心ゆくまで味わい尽くして探り当てる。  時が満ち、楸の花が開くまで、俺はその花を愛で続ける。何度味わっても飽くことのない。 俺の体の下で、熟し始めた楸の体が熱く火照り、とろけ、かぐわしい香りを放つ。甘い花の香。高い少年のよ うな声で心地よい啼き声を奏でる。  俺を受け入れ、熱を放つ色めく花と、まとわりつく絹のようなつぼみの両方を俺の硬く太い杭で乱暴にかき混ぜ、花びらを散らし、つぼみを開かせる。したたる蜜を吸い、果実から零れる汁を余すことなく舌で受ける。  俺の花、俺の小鳥。俺に組み敷かれ、甘い声で歌う。  どんなに味わい尽くしても、楸の内側に秘められた味を知ることは敵わない。きっと、無理にこじ開けてしまえば、花は散り、小鳥はかごから逃げるだろう。  だから、今は明けぬ夜の契りを交わし合うだけ。
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