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「あけおめ?」
新学期早々、俺の机に乗り出すようにして、木庭が話しかけてきた。
「あけおめ」
言われた言葉をそのまま返してやる。
「年賀状何通来た? 俺の年賀状届いた?」
木庭がにやにやしながら、机に頬杖を突いて聞いてきた。
「来た」
木庭の年賀状だけ来た。それも裏が白紙。
「でさでさ、あぶってみた?」
何のことかわからない。あぶる? 俺が不思議そうな顔をすると、木庭が途端に眉をへの字に下げた。
「ええー、あぶらなかったの? 小学生の時やったじゃん」
「年賀状を白紙で出してたのか?」
「違う違う! ほら、ミカンの汁でなんか書いてさー、年賀状出したりしなかった?」
俺の記憶の中でそういうことをしたことがなかった。俺が怪訝な顔をしているのを見ると、木庭はため息を吐いた。
「だから、小埜谷の年賀状も、裏に秘密のメッセージが書いてあるの!」
それを聞いて、俺は木庭を面倒くさいヤツだと思った。それが顔に出ていたのか、木庭が唇をとがらせて不満を漏らす。
「普通さぁ、変な年賀状来たらメールとか、電話で聞いたりしない?」
「いや」
「おかしいと思わなかったの?」
「白紙だなと思った」
「変だろ! 変だと思わないの!?」
俺は困ってしまう。変だとかおかしいとか思う前に、俺に年賀状なんて出すヤツは木庭しかいない。クラスの連中が俺を遠巻きにしている中で、木庭だけが俺にかまってくる。
俺が何でクラスの人間から避けられてるか知ってるだろ? 俺は声を出さずに心で呟く。
あいつ、男が好きなんだって。
中学の時に一大決心して告白したら、クラス中にばらされていじめられた。必死で県外に進学したら、高校に知り合いがいてあっという間に噂が広まった。
木庭だって知らないはずがないのに、クラスが一緒になって数日で俺につきまとうようになって、一方的にアドレスとか住所とか教えてきた。
差別しない人間ですとか言いたいのか。
「元から変なんじゃないのか?」
俺は口元を歪めて言った。
それを聞いて、木庭が肩を竦める。
「しょうがないなぁ……」
まだ、時刻は朝礼前。今日はこの後、全校集会があって、新年の挨拶から始まり小テストで終わりだ。それまでつかの間の自由時間。クラスは久しぶりの顔ぶれと肩寄せ合って話に夢中になっている。俺たちに視線を向けるようなこともない。
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