第1章

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「あけおめ?」  新学期早々、俺の机に乗り出すようにして、木庭(きば)が話しかけてきた。 「あけおめ」  言われた言葉をそのまま返してやる。 「年賀状何通来た? 俺の年賀状届いた?」  木庭がにやにやしながら、机に頬杖を突いて聞いてきた。 「来た」  木庭の年賀状だけ来た。それも裏が白紙。 「でさでさ、あぶってみた?」  何のことかわからない。あぶる? 俺が不思議そうな顔をすると、木庭が途端に眉をへの字に下げた。 「ええー、あぶらなかったの? 小学生の時やったじゃん」 「年賀状を白紙で出してたのか?」 「違う違う! ほら、ミカンの汁でなんか書いてさー、年賀状出したりしなかった?」  俺の記憶の中でそういうことをしたことがなかった。俺が怪訝な顔をしているのを見ると、木庭はため息を吐いた。 「だから、小埜谷(おのや)の年賀状も、裏に秘密のメッセージが書いてあるの!」  それを聞いて、俺は木庭を面倒くさいヤツだと思った。それが顔に出ていたのか、木庭が唇をとがらせて不満を漏らす。 「普通さぁ、変な年賀状来たらメールとか、電話で聞いたりしない?」 「いや」 「おかしいと思わなかったの?」 「白紙だなと思った」 「変だろ! 変だと思わないの!?」  俺は困ってしまう。変だとかおかしいとか思う前に、俺に年賀状なんて出すヤツは木庭しかいない。クラスの連中が俺を遠巻きにしている中で、木庭だけが俺にかまってくる。  俺が何でクラスの人間から避けられてるか知ってるだろ? 俺は声を出さずに心で呟く。  あいつ、男が好きなんだって。  中学の時に一大決心して告白したら、クラス中にばらされていじめられた。必死で県外に進学したら、高校に知り合いがいてあっという間に噂が広まった。  木庭だって知らないはずがないのに、クラスが一緒になって数日で俺につきまとうようになって、一方的にアドレスとか住所とか教えてきた。  差別しない人間ですとか言いたいのか。 「元から変なんじゃないのか?」  俺は口元を歪めて言った。  それを聞いて、木庭が肩を竦める。 「しょうがないなぁ……」  まだ、時刻は朝礼前。今日はこの後、全校集会があって、新年の挨拶から始まり小テストで終わりだ。それまでつかの間の自由時間。クラスは久しぶりの顔ぶれと肩寄せ合って話に夢中になっている。俺たちに視線を向けるようなこともない。
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