第1章

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「さみぃ」  坂之上が両手をブレザーのポケットに突っこんでぼやいた。  吐く息が白くなるほどの寒さじゃない。俺は横目で坂之上を見つめた。  坂之上の少し長めの髪が、耳にかかっている。ぴんと跳ねさせてセットした茶髪が、俺の目には格好よく映る。俺はそれほど寒くないけれど、坂之上はかなり寒いらしい。白い肌が今日は青白く見える。細い肩を丸めて、ぶるぶると震えている。  毛がスムースな仔犬みたいだ。 「なんで、十二月までマフラーもダメなんだよ。さみぃんだよ、なぁ?」  坂之上がアヒル口をさらにとがらせて、俺を振り返った。 「そんなに寒くないよ」  坂之上のとがった唇がすごく気になって、目が離せない。俺は坂之上の手を取ると、「寒くない」と言いつつ、自分のブレザーの下に坂之上の手を引き入れた。 「あったけぇ!」  坂之上の目が輝く。「あったけぇなぁ、おまえ」と言いながら、坂之上が両手を俺のブレザーの下に突っ込んだ。  とたんに俺の胸はひんやりと冷たくなり、坂之上の両手が俺の体温を奪っていく。俺の胸の鼓動を、坂之上が感じ取れるだろうか。俺の想いをその冷たい両手で受け止めてくれるかな……。
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