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3
「行くよ、―――」
今となっては思い出せない。昔の名前。
おいらが「マメ太」になる前の昔の名前。由美ちゃんがつけてくれた大好きだったはずのかつての自分の名前。
久々に由美ちゃんに名を呼ばれて、散歩に連れ出されたおいらはそのまま昇天しそうなほどの面持ちだったと思う。
ちぎれんばかりに尾を振って、由美ちゃんにすり寄った。
それでも前みたいに由美ちゃんがおいらに笑顔を返してくれることも、抱きあげてくれることもなかった。
その顔に浮かぶのは罪悪感。顔をゆがませた由美ちゃんのこの時の心情の名を知ったのは、それからしばらくしてからだった。
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