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由美ちゃんの浮かない表情を気に掛けながらも、おいらはただ久しぶりに向けられた由美ちゃんからの視線に舞い上がっていた。
もしおいらが長男みたいに冷静沈着で、この時の由美ちゃんの心情を冷静に分析できるほどに賢かったら、未来は変わっていたのかもしれない。それでも、おいらは昔と変わらず馬鹿で、単純で・・・。由美ちゃんの気持ちをくみ取れるほど大人じゃなかった。
かつて誓ったあの約束のように、由美ちゃんを守れるほど、支えられるほど、まだおいらは大人じゃなかったんだ。
「ごめんね」
なんの脈絡もなく、由美ちゃんはぽつりとそう言った。
おいらは由美ちゃんを見上げた。
何に対して由美ちゃんが謝っているのか、分からなかった。それでもぽろぽろと涙を流す由美ちゃんにかつてのあどけない彼女を見たような気がした。
「ごめん、ごめん・・・」
『泣かないで』
そう伝えられたなら。
せめてその涙が止められたなら。
ただそう願った。
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