90人が本棚に入れています
本棚に追加
しかしその巨大な犬はおいらに対してそこまで興味を示した様子もなく、近づいてくる誰かの足音の方にピクリと耳を動かした。先ほどまで動く気配もなかったその犬は突如すくっと立ち上がり、扉が開くのを待ち構えている。
「ただいま。あ、やっぱりまだいた」
そこにいたのは由美ちゃんでは無い別の人間。
それでも屈託ない笑顔がどこかかつての由美ちゃんに似ていると思った。
意味は良く分からなかったが、その人間はおいらの横にいた黒い犬にそう言って、その頭をわしゃわしゃと撫で、ふと思い出したようにおいらの方に視線を向けた。
一瞬その視線にびくりとする。
人間は怖い。兄妹達を連れていった人間達の値踏みするような目。次第においら達を邪険に扱うようになっていった由美ちゃんの家族。
『ごめんね・・・』そう言って、結局はおいらを捨てた由美ちゃん。
人間はいつだって自分達の都合でおいら達を扱う。
時に優しくして、飽きたら捨てるんだ。
この人間もきっとそう。もう二度と、気を許したりなんかするもんか。おいらはもう何も知らない子供じゃない。馬鹿で単純だった頃のおいらとは違う。
最初のコメントを投稿しよう!