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それでもおいらがここでの生活を苦痛に思わなかったのは、僕の一人目の飼い主、由美ちゃんのおかげだった。
由美ちゃんはこの家にすむ小学6年生の女の子で、いつも朝赤い鞄を背負って出かけていく。明るくて、可愛いおいらのご主人。
由美ちゃんが小学校とやらに出かけていく時は決まってその時間に由美ちゃんを送り出し、また帰ってくる時間には出迎えた。これがおいらの唯一の楽しみであり、この家に生まれてよかったと思える瞬間。
「行ってくるよー」
『行ってらっしゃい』
由美ちゃんも体の小さいおいらをほかの兄妹達よりずいぶんと可愛がってくれて、それがますますおいらを嬉しくさせた。体が小さくても、由美ちゃんにこうして可愛がってもらえるならそれで良かった。
そのことで兄妹達にひがまれ、さらに苛められることもたびたびあったけど、そんなことくらいどうってことなかった。
これから先、おいらの体が今よりずっと大きくなって、自分でも胸が張れるくらいに大人になったら今度はおいらが由美ちゃんの支えになるんだと、そう意気込んだ。
おいらは由美ちゃんがずっと変わらずにおいらを愛してくれるのだと勝手に思い込んだ。
由美ちゃんの笑顔はずっと変わらずに輝き続けるのだと思い込んだ。
それがいかに愚かで、いかに馬鹿であったのか、おいらはすぐに思い知らされることになる。
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