第1章

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二人が泊まるコテージ風のホテルは、 赤瓦の外観もさることながら、 部屋もどこかアジアンテイストで、 同じ日本にいるという感じがしない。 「ギリギリ、サンセットBBQあるぞ」 沖縄は年中暖かいのかと思ったけど ちゃんと寒い時は寒いらしい。 それでも、 この秋深まる時に外でBBQ出来るのだから、 やはり沖縄は楽しみが長く楽しめるところだ。 「肉、肉」 声は出ないけど、口パクで連呼すると、 「なんか、¨すき¨って囁かれてるみたいだ」 と、 能天気なケイタがわざとらしくモジモジするので、 後ろから膝蹴りをしてやる。 「ぉ前、口きけなくなってからキャラ変わったんじゃねぇの?」 そんなことない。 ケイタには、いつもこうしてやりたかった。 口より手が出る(足が出る)とはこの事だ。 「石垣産牛もいいけど、 魚も食べたいよなぁ」 魚すきなのに、魚食べたいのか。 少し肌寒いくらいの屋外レストラン肉を焼きながら、 ケイタは魚を欲しがった。 「沖縄に来たら、アレ食べなきゃ」 「ゴーヤ?」 口パクの問いに、ケイタは、 「ゴーヤが海に泳いでるか? 沖縄の海の新鮮な魚つったらあれだろ?」 と、もったいないぶって、それが何かを言わない。 魚はあんまり得意ではない。 私は肉でいい。 「おい、葵、肉ばっかり食うな!野菜も海老も食えよ。 ほら、 これな。俺が食いたいの」 頬張る私に、ケイタが見せたのは、 とても美味しそうには見えない、 青い魚だった。
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