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「帰る場所はありますか?」
三崎さんは答えた。
どこにもないよ、と。
「アイトくんにはあるのかな? 帰る場所」
三崎さんは軽く目を細める。
僕が口を開く前に、彼女の細い指先が僕の唇に触れた。
「答えは聞かないでおくね」
ああ、きっと、この人は答えなど聞かなくてもわかっているんだと思った。
視界に映る全てが霧散して、夢から現実へと意識が移行する。
時計を見ると、朝の四時を過ぎたところだった。
不思議と、寝覚めは悪くない。
ここ数日はずっとそうだ。
夜明けに目が覚めて、日が街に満ちるまで、色々なことを考えて時間を潰す。
ふと、さっきまで見ていた夢のことを思い出す。夢と言っても、つい昨日の話。
帰る場所。
「帰る場所」
家はある。でも、そうじゃない。
帰る場所は、自分の居場所。
僕の居場所。
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