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ちっとも悪びれる様子のない梛音だったが、俺の静止を渋々受け、なんとか大人しく向かいの席に座り直してくれた。
俺とした事が、すっかり梛音のペースに乗せられてしまっている。
いつもの自分を取り戻そうと、俺は珍しく躍起になっていた。
「レイセイ ニ ナレ」と自らの心に強く念じながら、側にあった水を俺は飲み干した。
瞬間、のどに焼けつく様な痛みを感じて、ハッとする。
しまった、どうやら間違えて梛音が飲んでいた焼酎の方を、飲んでしまったようだ。
ぐにゃりと視界が歪んだように思えた。
まずい、油断した。
あの独特な仄暗い世界に引きずり込まれそうになるのを、俺は自分の唇を噛みしめて必死に堪える。
俺はすっかり荒くなってしまった息を必死で整えながら、梛音に声を掛けた。
「ッ悪い、梛音。済まないが、タクシーを呼んでないか…」
冷や汗が背中を流れてゆく。
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