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俺は四つ這いになり、鉛のように重くなった身体を、無理やり引きずるようにしてバスルームに向かう。
部屋を選ぶ時に唯一こだわったのが、この防音付きのバスルームだった。
もともとはラブホテルだったのを改装した為に、洗面台とトイレとバスタブの一体型にしては、人ひとり寝そべれるくらいの広さがある。
どんな羞恥プレイもお好みに、というところだろう。
洗面台の下にある金属製の配管には、随時手錠がはめてある。そのぶら下がった片方に自分の腕をはめ、俺はようやく人心地ついた。
途端に猛烈な吐き気と、痺れるような悪寒に襲われる。震えのせいで思い通りにならない身体を抱え、俺はトイレの便器に顔を突っ込んだ。
まだ、この呪縛から俺は逃れられないのか。
何度も、何度も、俺は吐き続けた。胃の中がすっかり空になり、胃液しか出ない状態になっても、それは一向に治まる気配が無かった。
「うああツ」
幻覚だと分かっていても、自分の身体を這い回る虫たちの悍(おぞ)ましさに思わず声が出てしまう。
無意識のうちに俺は暴れていたのだろうか、手錠が食い込んだ手首からはすでに血が流れ始めていた。
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