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「寒いだろ?悪い、勝手に持ってきた」
そう言うと梛音は俺の肩に、寝室から運んできた毛布を掛けてくれた。
そして血が滲んでしまった俺の手首にそっと触れ、優しくキスをする。
ちっともイヤラしくないキス…
動物同士が傷を舐め合うような、そんな労わりのキスだった。
「手錠、もう外していいよね。えっと、鍵は?」
おもむろに梛音は口を開き、俺にカギの在り処を尋ねた。
「つッ、まだ駄目だ」
慌てて俺は梛音を制した。
だいぶ発作が収まってきたとは言え、またいつ何時、幻覚に襲われ、暴れ出さないとも限らない。それに、発作の後のほうが、もっとタチが悪い。
梛音にだけは、絶対に危害を加えたくなかった。
「そっか…」
とっさに俯いた梛音の表情は読めなかったが、なんだかひどく辛そうに思えた。
ふと、俺は疑問に思った。
「なぁ、お前、俺のこんな姿を見てもちっとも驚かないんだな…。なんでだ?」
居酒屋での対応もそうだ。今思えば、梛音は冷静すぎるほど冷静だった。
まさか、いや、そんな筈はない。
俺は自分の頭に浮かんだ最悪な考えを、即座に打ち消した。
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