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しかし、そう考えれば、梛音のこれまでの行動すべてに合点がいく。
「知って、たのか?」
「……うん」
何を?と尋ねる事も、ごまかす事もせず、梛音はただ悲しげに笑った。
「確かに、初めて君に興味を持ったのは、君が医療用ドラッグ“ヘヴン”の薬害チルドレンだと知ったからだよ…」
薬害チルドレンとは、薬物依存症の母親から生まれ、その胎内における栄養吸収、及び母乳の摂取により、本人の自覚のないままに薬物を大量に摂取させられた子供の事だ、そう、これこそが人に知られたくない俺の最大の秘密だった。
怒りにかあっと熱くなる、身体中の血が逆流してくるかのようだった。
ほら、やっぱりだ。
俺自身に興味を持つ奴なんて、この世にはいやしない。
知ってただと?ああ、そうかッ。
そりゃさぞかし、面白かったろうさ。
こんな間近でサンプルを観察出来るなんて、滅多にない経験だろうからな。
許せなかった、俺の心を土足で踏み荒らした梛音が。そして余りにも簡単に篭絡した自分が。
ははっ、とんだピエロだ。
惨めな自分を自覚した途端、おぞましいほどに残酷な負の感情が、ふつふつと己れの心に湧き上がるのを感じた。
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