第1話 欲望のままに

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俺にはアルコールを飲めない理由(わけ)がある。その為店主にはウーロンハイと称して、ウーロン茶を出して貰えるように予め頼んでいるのだ。 それこそがこの店を行きつけにしている最大の理由だった。 無論、店自体も気に入っているので、迷惑料として代金はウーロンハイと同じで取ってもらっている。 なぜ、そこまでするのかって? ひとつは、一緒に飲んでいる相手をシラけさせない為。もうひとつは、飲めない相手に無理やり酒を勧める迷惑ヤローをかわす為、だ。 無論、梛音に関しては、前者の理由だった。 このひと月、共に過ごしてきて分かった事がある。それは梛音が、決して人の嫌がる事を無理強いしない奴だという事だ。 こんな俺と「友人になりたい」とまで言ってくれた梛音……そんないい奴だからこそ、俺とは関わり合いにならせちゃいけない。 だから今夜、俺は梛音をとことん傷付けて、自分が嫌われるように仕向けるつもりだ。 なのでせめて酒だけでも、梛音に美味しく飲んでもらいたかった。 梛音は不思議な奴だ。 人と群れない俺に、その理由を尋ねようともしないし、無理に輪に入れさせようともしない。
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