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ごく自然に俺の隣にいて、周囲と俺が衝突しないように、また俺が浮いてしまわないようにフォローしてくれていたように思う。
おかげで最近は、変わっていると後ろ指を刺される事も、何を考えているのか分からないと言われる事も少なくなった。
「なあ、なんで俺の側にいるんだ?」
ずっと気になっていて、でも怖くて聞けなかった問いだった……
梛音は一瞬、驚いた様に目を見張り、そしてこれ以上はないと言うくらい嬉しそうな顔で笑った。
「ぼく、じゃなくて俺、なんだね。少しは心を許してくれたって事なのかな?」
梛音の言葉に、俺は思わず目を見張る。
「鋭いな。どうして、分かったんだ…?」
梛音の前では今まで、自分の事を“俺”と言った事は無い筈だ。
俺が自分の事を普段『ぼく』と言っているのは、本来の自分を出さない為の、いわゆるストッパーのような物だ。
俺にとって感情の昂(たかぶ)りは、アルコールと同じように、禁忌な存在だった。
だから普段から、話す言葉も行動も全てコントロールしている。
決して感情のままに動かないように。
俺の人生は、高邑 憐という人物を演じる一つの舞台のような物だった。
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