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見上げれば、そこにあるのは、星一つない夜の空。
不鮮明なのだけれど、どうやら厚い雲が広がっているらしく、引っ切りなしに雨粒が、呆けて仰ぐ頬を打つ。
ベンチに座る傍らに置いた荷物は、必要最低限の荷物すら入っていない。ただ飛び出したい、逃げ出したい。そんな思いが、代わりに一杯に詰まっているようだった。
だから当然、雨具なんて入っているわけがなくて。私は徐々に強まる雨に濡れっ放し。半ばまで飲み干した、レモンティの缶がひりひりと冷たい。
これからどうしようか――いや。どうしようもないんだけど。
客観視すると、割と詰んでた。
笑えてくる。
多分、と言うか絶対雨水の混入した紅茶を飲み干すと横にあった、粗末なゴミ箱に投げ捨てる。
普段はあまり成功しないのだけど、今日に限っていい感じにナイスシュート。小気味よい音を立て、缶が収まった。超エキサイティン。
――ハァ。
――――そんな事が上手く行っても、しょうがないんだけどな。
思わず、脱力。ベンチにもたれ掛る。背筋が冷えた。
今って七月だよね。夏の雨って、こんなに冷たかったかな。
まぁ、もうどれ程濡れても同じなんだろうけれど。
そのまま流れるような手つきで、パーカのポケットから携帯を取り出し、時刻を表示し――たちまちその液晶が雫でぼやけた。
着信が、たくさんあった。メールも、おっくうなほど来ていた。こうして見ている間に、また着信一つ。携帯がバイブする。
拒否。ピ――と、電子音が鳴り、振動が止まった。
いや。出れば、このどうしようもない現状から戻れるんだろう――戻れるんだろう、あのどうしようもない日常に。
それは二律背反で――あれ。それって、こういう場面で、使う言葉だったかな。……とにかく。今、この電話に出るわけには行かなかった。
そんな事をしたら、こんな遠くに来た意味を、失ってしまう。
何かを変えたくて、でも、何をすればいいか分からない――まだ、こんな事じゃあ何も変わらないという証明すら、できてないんだから。
携帯を閉じ、元のポケットに放り込み、私は、目を閉じ――かけて、ふと。
――あるものが、視界をかすめた。
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