第1章

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 第一話 居眠り狼    序  ぼっ、 と。  夜道に小さな炎が燃え上がった。  放り出された提灯から火が吹きこぼれたのだ。  提灯を放り出したのは年若い手代で、主人ともども地面の上で腰を抜かしている。炎は二人の怯えた顔と、その前に立つ男を照らしている。  麻布霊南坂は南北に伸びた長い坂だ。諸藩の上屋敷が続き、右も左も白い土塀が長々と続く。  その土塀に蛇のように細長い影がゆらゆらと動いていた。  立っている男が持つ刀だ。 「お、おた、おたすけ……」  どこぞの商家の主人は震える手で懐を探り、財布を出そうとした。 目の前の男は強盗に違いない。  いや強盗ならまだましだ。  これがただの辻斬り、人殺しであったなら命はない。
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