番外編  出張    #2

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俯くあたしの顎を小笠原の長い指が掬いあげる。 見上げた先では揺らぎのない綺麗な黒い瞳が待ち受けていた。 ちょっとたじろぐ。 「なんか言うことは?」 無表情。小笠原の思考は読み取れない。 瞬きもせずに見つめられて呼吸が止まりそうだ。 「あ、あの、ごめ──」 と、言いかけたところで小笠原の顔が近づく。唇には柔らかな感触。 「お前って、バカ」   ───え? 顔を覗きこむ小笠原の容赦ない言葉。 「勝手にひとりで不安になるな。俺は誰のためにいる?」 「先生……」 「俺はお前を忘れたことはないよ」 極上の笑みに身体が震えた。 この人って。 どれだけあたしを甘やかしたら気が済むんだろう。 「あ、あたし……」 「誕生日、おめでとう」 ひたすら泣いてたあたしは、小笠原にぎゅうぅぅっとされて。苦しいくらいに抱きしめられて。 あぁ、完敗。 鼻を掠めたタバコの香りは、こんなときでもどうしようもなくあたしを疼かせた。 ──好き。  あたし、この人が 好きで好きで好きで好きで、 好きでたまらない。
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