第1章

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 無口な人間というのはクラスに一人は居るもの。  個性が被らないよう教師が配慮して生徒を各教室に仕分けるので、それは仕方が無いことだろう。  この教室でも例外は無く、一人の無口な少女が居た。  誰が話し掛けても答えない彼女。  クラスには当然に気さくな人間も居るのだけれど、さすがに声を掛けては無視をされを繰り返されては、堪らない。  少女はいつしか孤立してしまい、しかし、それを嘆く様子は無い。  幸いだったのは、誰かが彼女を苛めたりしなかったことだ。  コミュニケーションを取らない。  たったそれだけで彼女を排そうとする人間がいないことに安堵する。  少女はいつも放課後に居残る。  部活に入っているわけでも無く、誰かを待っているわけでも無い。  ただ静かに座っているだけ。  日が落ちて、夜が来る。  グラウンドにすら誰も居なくなってようやく彼女は教室を出る。 「またね」  彼女は礼儀正しくも誰もいない教室にお辞儀をする。  剣道部などは使用した道場に向けて礼をするという話だし、きっとそれだろう。  一年間。  彼女はずっとその挨拶を続けていたけれど、冬休みに入る前だけは言葉が変わった。 「さようなら」  この教室への別れを惜しんでいるのだろう。  来年は上級生となってクラスが変わる。  一抹を寂しさを感じてしまい、ぼくはついつい返事をしてしまう。 「来ないならこちらから行くよ」  バトル漫画にありふれた言葉で答えた。  自嘲する。  ぼくはここから離れられないし、少女に聞こえるわけもない。  しかし、驚いたことに、少女はそれを受けて返事をしてくれた。 「地縛霊が無理を言わない」  まさか見えているとは思っていなかったぼくは呆気に取られた。  ぼくを窘めた彼女は「心配しなくても、私は一人が好きだから」そう言って笑う。  どうもぼくが声を掛けたのは、彼女を心配してのことだと勘違いしている様子だった。  単純にぼくが寂しく感じてしまって漏れた一言だったのだけれど―――しかしまあ、良いか。  そう思っていてもらった方が恥ずかしくない。  まさか聞こえるとは思っていなかったからこその失言だった。  彼女がお辞儀をするので、ぼくもまた黙って返礼する。  顔を上げると既に彼女は居なかった。  本当に一人が好きなのだと思い、一年間も傍に佇んでしまい、悪いことをしてしまったと赤面する。  胸の辺りが少し痛んだ。
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