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あちこちに掃除されていないのであろう、埃がたまり、蜘蛛の巣まで張っているところがある。 美術室はその中でも特に薄暗く、汚い場所だった。 「いや、せっかく来たんだし、先輩たちの絵でも見てから帰ろうかと」 またこいつは面倒なことを始める、と弥生は深く長い溜息をひとつつくが、すぐに龍にならってキャンバスが並んでいる奥の教室へ向かう。 「なんか本当に汚いね」 「そりゃな、ここ使ってる生徒といえば変な奴だけだろ?俺も詳しくは知らないけど、とにかく変わり者って聞くよ。それなりの生徒がたむろってるのかもな、ここらは」 「この絵たちは誰が描いたのか知ってる?」 そこには描きかけの絵、完成している絵、真っ白で描かれていないキャンバスが積み重なっていた。うまく積み重なっているところもあれば、誰かが触れて崩れてしまったのか倒れているキャンバスもある。 弥生の問いは龍にもわからなかったらしく、「さあな」と流れた。 「でもうん年前だろうな、下手すれば数十年前のものとか、あるかもしれないな」 この学校は本校舎、今使われている校舎のほかに、ここ別校舎と、旧校舎の三つがある。 本校舎で生徒が授業を受けるようになったのは二十年前ほどで、それまでは旧校舎で授業を行っていた。旧校舎は木造建築で、現在は図書館になっているが、都の木造校舎の特別賞かなにかを受賞したので生徒より年配の、それこそ旧校舎で授業を受けていた世代の市民や観光客が訪れる場所となっている。旧校舎には、入ってはいけない教室という一室があるらしく、心霊スポット、学校の七不思議としてテレビで取り上げられるほどの知名度もある。 別校舎はその旧校舎が使われていた際一緒に使われていた校舎で、美術室、音楽室など選択科目のための教室が並んでいる。多目的ホールというのも最上階にあり、昔はそれなりに賑わっていたらしいが、今では恐れられる校舎だ。現在別校舎の美術室は、美術部がたまに画材を取ったり場所を変えて絵を描くときに使われ、今年度部長が変わってから一度も足を踏み入れた生徒はいない。音楽室も同様、吹奏楽部のパート練習などで時々使用されるが、生徒が滅多に入らない音楽室として話題になるぐらいなのだから使う人はいないのだろう。
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