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2、
転入生とはこんなものだっただろうか。
弥生はふと疑問に思った。
霊亜は先ほどから一度も席を外さない。話しかけられても何も答えようとする気配はなく、まるで空気のようだ。
彼はその理由を確かめるため、話しかけてみることにした。
「ええと…初めまして、僕、学級委員の岡崎弥生って言います、何か不安なこととかあれば、いつでも聞くからね?」
おどおどとしてしまう態度は父親譲りで、女には逆らえない、と弥生と彼の父はいつも母と妹にいいように使われていた。不満だが、実際無口な彼女にもこんな態度をしていては、おしゃべりのあの二人を相手するのには十分すぎるほど弱かっただろう。
話しかけてみたがやはり反応はない。
耳が聞こえないのかと心配になったが、先生がそのようなことは言っていなかったし第一、本人は自己紹介で喋っていた。
ただ単に男子は寄せ付けまいとしているのだろうか。
弥生はそれ以上彼女に近付けなかった。
「おーい、聞いてるのか?っていうか、聞こえてるか?今岡崎が喋ったんだけど」
龍に助けを求めようとしたタイミングで、彼がやってきて霊亜に話しかけた。
霊亜は負けを認めたかのように長い溜息をつくと、こちらに顔を向けた。
筋の通った鼻と大きい瞳、目立ちすぎない薄い唇。
日焼けなど知らないような白い肌は、美しさを越した恐ろしさを感じさせる。
「…何か…用ですか」
消え入りそうな声でそう言う霊亜は迷惑そうに顔をしかめた。
「いや、用も何も岡崎が話しかけてるんだからよ、ちゃんと聞けよ」
龍もむすっとした表情で返す。
「私に…近付くと危険だから…もう話しかけないほうがいい…」
彼女の瞳から、いつの間にか光が失われている。
「え…それって…」
弥生が喋りだすと同時に椅子を勢いよく引き、教室を飛び出して行ってしまった。
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