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3、
それから最後の六限目まで一回も教室に戻ってこなかった霊亜を探すため、放課後に弥生と龍は手がかりを求めて職員室へ向かった。
「なあ、朝のあれ、なんだったと思う?」
向かう途中、龍は腫れものに触るようにおそるおそる弥生に尋ねた。
「さあ、僕にもわからない。でもあれが演技だとは思わないし、思えないよ。本当に関わったらいけないのかもしれない」
どうせこれから彼女を探しにいくんだ、と弥生は問いにはっきり答えた。
言葉にした通り、彼には迷いがあった。
霊亜が言ったことは本当な気がする。触れてはいけないものだと感じる。
あの目は、あの光を失った瞳は、本物だった。
職員室の角に着くと、丁度良いところに河村がいたので声をかけようとした。
しかしその声は発することができなかった。
「…もう招いてしまった災いだ、取返しはつかない。…ああ、そんな事は僕が一番知ってるよ、一番近くにいるんだから…」
河村の手には携帯電話が握られており、誰かと電話をしている。
耳にした内容だけでも、とんでもないことだと察することができた。
"災い""取返しはつかない"。
「あの…さ、これって伊那に関わることじゃないよな?」
龍が顔を引き攣らせて弥生に問う。
「関わる…ことだと思う…多分、というか―――」直感的に。最後の一言は出なかった。河村が電話を終えて職員室に戻ろうと動き出したからだ。
あの、と声をかけようと弥生が足を前に出すと、龍が彼の肩を掴んだ。片方の手で人差し指を口の前にあて、「黙れ」とジェスチャーで伝える。
「ここで話しかけたら聞いてたことがバレるだろ、もう少し慎重にいけ」
いつも慎重にいかない龍に言われたくないと返すが、確かにそうだ。
河村が職員室に戻ったのを確認し、職員室前の熱帯魚を眺めて五分。ようやく龍が行くぞと合図を出した。
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