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「失礼致します。河村先生はいらっしゃいますか」 職員室のドアを開けると、思ったよりたくさんの先生がいた。 放課後に職員会議があるのかもしれないが、この学校の職員会議は職員室ではなく別校舎の最上階の会議室で行う。学級委員もそこで生徒会役員たちと会議をするので二人はよく知っている。 やはり何かがおかしい。 霊亜のことだろうかと弥生が考えたとき、河村が先ほどのトーンでは考えられない呑気な声をあげ、二人のところへ向かってきた。 「なにかな?没収物でもあった?」 没収なんてされるのは龍だけだ。それに弥生はよく付き合わされるだけで、いい迷惑だといつも毒を吐いている。職員室に来るなんて、その没収物を返却してもらうためか、学級委員の顧問に呼び出されたときか。それぐらいしか縁がない。 「俺はもう没収なんてされませーん。やっぱりさ、学級委員としての威厳みたいなものを大切にしないとって思って」 お調子者の龍は演技が上手い。そのため、先生や友達を誤魔化すのに便利だということは中学生のころから弥生は心得ている。 「その心得、入学したときに聞きたかったよー、なんで2年生になってやっと改心するのさ、遅すぎだよ遠藤くん」 河村の、からからと笑うその表情の間に引き攣った顔が見えた。嘘や誤魔化すときに表情筋が無意識にそうするのだ。弥生は心理学をかじっていた時期があったのでよく知っている。 「先生、伊那さんがどこにいるか知っていますか?僕たち、伊那さんに話があるので探しているのですが見当たらなくて」 弥生がそういうと、河村の目は大きく見開いたあと、右上に動く。 「あ、そうなの?僕も実は探していてね…」 二人を見て続けた。「さっき美術室にいたって聞いたんだけどなあ」 龍が先生に「かわむー、ありがと!助かったよ!」と言い、弥生も軽く頭を下げて職員室をあとにした。
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