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美術室は別校舎五階建ての四階にある。移動までかなり時間がかかるし、なにより美術選択をしていない二人には無縁の場所だ。
「なあ、心理学者岡崎先生にとってみてどうよ、さっきのかわむーの様子」
歩きながら龍が問う。
「嘘をつくときの癖を見つけた。今の話で嘘は二つあったよ。」
入学したときに聞きたかったよと笑った時の一瞬の引き攣った表情、実は僕も探していると言ったときの目の動き。
「まじで?やっぱすごいわ岡崎。」
「表情筋は何よりも素直だよ。あと目は右上を見ながら話すと嘘。空想や妄想で話しているっていうのが心理学的にあるから、龍もだますときは右上を見ないようにね」
「オーケー、了解。」
「美術室にいたっていう情報は本当みたいだな。でもなんで、誰に聞いたんだろう」
弥生はそれだけが気になっていた。
河村が実際に美術室で会ったのか、美術の教論がそう伝えたのか。
「かわむーが会ったんじゃねえの?」
「それにしては目が聞きましたって言ってた」
「んー、じゃあ美術の先生か三年の先輩とかが言ったんじゃない?」
そういえば、三年の先輩の中にも転入生がいた。転入してきたのは多分先輩達が二年のころ。今頃ではなかったか。
弥生がそのことを言うと、ああ、そんなことあったなと龍も納得する。
「面白いな、偶然ってあるんだなあ」
龍は遠い目をしてこの偶然を面白がっている。確かに珍しい話なので興味を持つが、転入生が誰かと聞かれたら先輩の代の人はわからないし、そこまで知ろうとも思わない。
美術室に着くと、そこは無人だった。
「あれ?誰もいないぞ?」
龍が間抜けな声で言った。
「うん、確かに誰もいないね。先生の情報は古かったのかな」
「人が言った情報が古いとか新しいとか、そういう判断ができる心理学はないのか?」
「それって心理学じゃないよね…情報は常に新しくなるものだし、こういうことはよくあるからしょうがないね」
弥生はそう言って美術室を一瞥すると、本校舎に戻ろうとした。
「なあ、ちょっと待てよ」
龍がやけに低い声でそう言った。
「どうした?何かあった?」
思わず鳥肌が立ってしまう。
放課後の別校舎は少し気味が悪い。電力が乏しいのかもしれないが、電気をつけてもあたりは薄暗く、その上別校舎にいる人など変わり者だと言われるほどなので、校内であっても治安が心配になる。
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