第6章 その噂、真偽定かにあらず

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「は?幽霊ですか?しかも電車の?」 お昼休み、先輩と飯を食べていた俺はオウム返しのように聞き返した。 ここはとある駅。といっても大都会の人がごった返す駅ではなく、田舎の駅だ。しかし車両庫もあり終着点であるからそれなりには人は多い。 俺は在来線の電車の運転手だ。年は20代、まだまだこの世界に入って数年だが段々とこの職場が面白く思えてきた、そんな時。 「いやいや、ほんとだって!真面目に出るらしいよ?」 この人は俺の先輩。年は数才上でこの職場に入ってから色々な事を教えてもらい、今ではよく一緒に飯を食べたりしている。 その時に色々な話を聞くのだが、この人はオカルト好きでそういう話を好んでするのだ。この前はこの周辺で狸や狐がたくさん生息しており、それらが人を化かしているという話だった。 「でもさすがに今回のはないですよ。電車の幽霊って……」 「マジもんよ。それに明治期には偽汽車なるものが出たらしいし。あ、偽汽車っていうのはだな……」 そう言うと先輩は話し始めた。そう、この人は好きなことになると止まらなくなるのだ、そのお陰で昼休みはあっという間に終わってしまうことがほとんどなのだ。 先輩が話している間、俺は別な事を考えていた。 俺には霊感はない。幽霊もそうだが妖怪なんてのも見たことはない。ましてやそんな奇怪現象にも出くわした事はないのだ。それなのに何故こんな話をするのだろうか。 先輩は多分見たことがあるのだろう。何回かそんな話を聞いたからもあるが、実際に職場でも何度か霊的なものを見たと言っている。まあ本当かはわからないが。 それにそんな話をしたところで俺がオカルト好きになるわけでもないし……。やはり話をする人がいないからとか、そんな理由なんだろうか。何かそう考えると複雑に感じるな。 (……今度聞いてみるか、何で俺なんかにそんな話をするのかとか。まあ覚えてたらだけど) すると先輩が時計を見るとあ、と声をあげ、 「もう休み時間終わりか。すっかり時間がなくなっちまった。よし、この話はまた今度でもするか!」 「え?あ、はい。また是非。それでは次、自分は運転なので」 おう、と先輩は手を上げそれに答える。俺は弁当を片付けると準備をして、隣に置いていた帽子を被った。
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