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その後電車はいつも通りに進んだ。
この路線は各駅停車だが中には無人駅がちらほらとある。そこで何かあるか、と思ったが特に何もない。
乗客も誰が暴れただの、喧嘩なんてのも一切無い。皆、席に座ったりつり革に捕まったりもたれ掛かったりして、各々がそれぞれの事をしている。
(やっぱり杞憂だったか。まあそうだよな、そうそう変わった事なんて起きやしないんだし。先輩の話を真に受けすぎたんだよな)
そう思いながら、俺は電車を走らせる。しかしここはいい所だ。時折ある木々の中、人の手が入らずそのままの植物や廃屋、ちょっとした陸橋でも興味を引かれる。
もちろんきちんと運転しないといけないのは分かってる。乗客に怪我なんてさせたら、それはもう運転手失格だ。
しかしここの景色は俺の心を躍らせる。昔住んでいた懐かしい景色を思い浮かべるのだ。
(いっそのこと、ここに住もうかな。すぐに職場に行けるしこんな景色を毎日見られるなら、都会よりよっぽどいいかもしれない。多少交通の便は悪いがそれは仕方ない事だしな)
そう思っていると次の駅に停車する。ドアが開き、乗客が乗降する。ふと頭上の計器が気になったので止まっている間に確認する事にした。
椅子の上に上がり、見てみる。異常は見られない。まあそうだろう。
(さて、次の駅は確か……)
そんな悠長な事を考えながら運転席に戻ろうとしたその時、目の前から電車が迫っていることに気付いた。
「え!?な、何だ!?何で反対側から!?」
俺の口からはそんな言葉が出てくるが、それ以上に俺はパニックに陥っていた。
(ど、どどどうすれば!?このまま行くと激突、ってもう目の前まで来てるし!)
電車は既に目の前まで迫っていた。そしてスピードを緩めることなく俺の電車に向かってくる。
もう駄目だ、俺はそう思うと何もせずただ目をつぶった。
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