第6章 その噂、真偽定かにあらず

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「なるほど、そういうことだったのかい」 ここは近くの定食屋、俺は先程一緒の車両にいた先輩乗務員にお詫びも兼ねて、一緒の飯を食べていた。またその時、何故止まったのかという理由も話した。 この先輩は俺よりも一回りも二回りも年上のベテランの方で、温厚そうで好々爺とした感じだが、仕事には厳しい人だと聞いていた。 しかし話してみるとそんな事はなく、俺のミスに関しても怒るどころか、仕方ないさと笑って水に流してくれたぐらいだ。 「本当に、すいませんでした!」 「大丈夫大丈夫、まあ事故にならなくて良かったよ。……しかし、やはりまだ出たんだ。また何人かからは聞いていたけど」 「え?知ってるんですか?あの幽霊電車を」 俺が聞くと、彼はまあなと答えタバコに火を付け一服。そして俺を見ると周りには聞こえない声で、 「……俺も遭遇したことがある。その時はあっちは轢かれちまったようだが」 「え!?実際に遭遇したんですか!」 「声大きいよ。……まあね。若い頃の話さ。その後現場調べたら動物の死体が線路に横たわっていたし。確かあれは、狸だったかな?」 俺は唖然とする。やはり俺の遭遇したのは幽霊電車だ。しかも俺と先輩が遭遇した電車に化けていたのは貉と狸、それぞれ違う。 俺は先輩に他の事も聞いてみるか。 「先輩、それ以外の場合はありました?」 「それ以外か……。あ、確か貉ってのもあったし、狐ってのもあったな。基本的にはその3種類だ。しかもお前の場合みたいに停まってるときに遭遇したとか、駅で電車待ってて目撃したなんてのもあるから、本当はもっと多いかもな」 なるほど、と俺は納得する。これはかなり凄いことだ。俺はその一片に今日触れたのかもしれない。 しかしそうなると彼らがそうする理由が分からない。何故死ぬ恐れもあるような事をやっているのだろうか?人を化かすなら別な事でも出来る気がするが。 うーん、と俺が唸っているといきなり定食屋の扉が開き、1人の男が息を荒くして入ってきた。そして大声で叫んだ。 「おい!い、いま、で、電車同士が、しょしょ正面衝突したぞ!」
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