第6章 その噂、真偽定かにあらず

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現場は思っていた以上に酷かった。野次馬も集まり、既に警察によって規制線が張られている。 「車両同士が、正面衝突……。あの電車に乗客は?」 電話で誰かと話していた先輩がうーむと唸りながら電話を切ると、 「両方に乗客は乗ってなかったらしい。そして、”運転手もいなかったらしい”。2つとも死体が見当たらないらしい」 「そ、それっておかしいですよ?片方に誰もいなかったとして、ぶつかった方にはいないと事故として成り立たないですよ?それにこの電車って……」 俺はそう言いながら、ぶつかった方であろう電車を見た。そう、こちらを運転していたのは恐らくあのオカルト好きの先輩なのだ。あの人が運転していた車両なのだ。 「とりあえず今は何も分からないな。俺は各部署に問い合わせてみる。まったく、怪我人がいなかったからいいが、下手すりゃ大惨事だぞ……!」 彼は怒り気味にそう言うとまた電話を掛けに立ち去った。1人取り残された俺は現場を見ていたのだが、ふと声が聞こえた。 『おいおい、狸側はずいぶん派手な事してんなぁ。誰だ?やった奴』 『よほどの奴よねぇ。私ら狐じゃ真似もできないわよ。ねぇ?』 『いやいや、俺らの方の奴らじゃない。それに今回は狸じゃなくて”貉の番”だろうが』 『あら?そうだったか?……しかし俺も特に指示はしてねぇんだけど。誰かやったか?』 どこからか声が響いてくる。そしてふと周りを見ると事故の現場を見学する光輝く目。人ではない、動物だ。それに聞いたところ、狸と狐、そして貉の3種類がいるようだ。 『ったく、どうすんだこれ?騙すにしたってこれはさすがに度が過ぎてんぞ?』 『そういや、最近貉の方で少し過激な”騙し”が増えている気がします。どうなのです?』 『むぅ、確かにな……。恐らくうちのものだが、何故こんな事を……?わしらはただ、人をどれだけ多く、巧みに化かせるか競っとった、それだけなのにな……』 俺は声が聞こえる方向を探るが、辺りに反響して聞こえるため、見当がつかない。 その時、足元を何かが通った。それは狸に似た生き物で、貉だ。それが、何故か運転手の帽子を被りこちらを見上げている。 「な、何だこいつ……?ってこの帽子ってまさか……」 すると貉がニヤリ、と笑ったように見えた。そして聞き覚えのある声で喋った。
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