第1章

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わたしは料理が下手だ。 何を作ろうとも、無残な結果に終わる。 だか、わたしは今はもう何度目かのタルト作りに、ハマっている。 いや、ハマっているというより、取り憑かれてるのだ。 ことの発端は、無口な彼氏がタルトが好きだとわかったことに始まり、もうすぐ彼氏の誕生日が近いのに終わる。 なんとしても彼氏の口から「美味しい」という言葉が聞きたくて、台所で奮闘中なのである。 たかが、タルト。 されど、タルト。 である。 失敗作はどれも口にするのも憚れるほどの味で、なぜ本の通りにして、そうなるのかがわからない。 料理センスがないのかもしれないが、あきらめる選択肢はわたしにはなかった。 「こんなの光輝に食べさせられない!」 わたしはいつになく燃えていた。 カスタードを主体としたチェリータルト。 両方とも光輝の好物なのだ。 あきらめるわけにはいかない! 新たな闘志の元、わたしは頑張って頑張って、なんとかまともな形のタルトを作ることが出来た。 問題は味である。 試作品のひとつを恐る恐る食べると、まともな味がした。 カスタードとチェリーのハーモニー。 「やった!」 泣きそうになりながらも、カレンダーを確認する。花丸のついた日が光輝の誕生日だから…決戦は5日後。 それまでにより完璧なモノをとわたしは奮闘していた。 とうとう光輝の誕生日、わたしは出来上がったタルトを胸にデートに臨んだ。 「光輝」 待ち合わせの駅で光輝を見つけて、手を振ると、軽く手を振り返してくれる。 「ごめんね。待たせた?」 光輝はゆるく首を振り、じっとわたしを見つめてくる。 「光輝、誕生日おめでとう」 言って、わたしは出来上がったチェリータルトを渡した。 「ここじゃなんだから、公園行こうか」 頷く光輝からは嬉しそうなオーラが出てて 、わたしを更に緊張感と嬉しさの混じった不思議な感覚にさせる。 近くの公園のベンチに座りながら、光輝はラッピングされた飾りをとり、中からチェリータルトを出した。 光輝は食べていいの?と目で訴えてくるから、わたしは思いきり頷いた。 「味大丈夫だと思うだけど……」 わたしの言葉をよそに光輝はチェリータルトを頬張った、刹那。 ガチンと何かが邪魔する音が響いて、わたしは青ざめた。
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