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わたしは料理が下手だ。
何を作ろうとも、無残な結果に終わる。
だか、わたしは今はもう何度目かのタルト作りに、ハマっている。
いや、ハマっているというより、取り憑かれてるのだ。
ことの発端は、無口な彼氏がタルトが好きだとわかったことに始まり、もうすぐ彼氏の誕生日が近いのに終わる。
なんとしても彼氏の口から「美味しい」という言葉が聞きたくて、台所で奮闘中なのである。
たかが、タルト。
されど、タルト。
である。
失敗作はどれも口にするのも憚れるほどの味で、なぜ本の通りにして、そうなるのかがわからない。
料理センスがないのかもしれないが、あきらめる選択肢はわたしにはなかった。
「こんなの光輝に食べさせられない!」
わたしはいつになく燃えていた。
カスタードを主体としたチェリータルト。
両方とも光輝の好物なのだ。
あきらめるわけにはいかない!
新たな闘志の元、わたしは頑張って頑張って、なんとかまともな形のタルトを作ることが出来た。
問題は味である。
試作品のひとつを恐る恐る食べると、まともな味がした。
カスタードとチェリーのハーモニー。
「やった!」
泣きそうになりながらも、カレンダーを確認する。花丸のついた日が光輝の誕生日だから…決戦は5日後。
それまでにより完璧なモノをとわたしは奮闘していた。
とうとう光輝の誕生日、わたしは出来上がったタルトを胸にデートに臨んだ。
「光輝」
待ち合わせの駅で光輝を見つけて、手を振ると、軽く手を振り返してくれる。
「ごめんね。待たせた?」
光輝はゆるく首を振り、じっとわたしを見つめてくる。
「光輝、誕生日おめでとう」
言って、わたしは出来上がったチェリータルトを渡した。
「ここじゃなんだから、公園行こうか」
頷く光輝からは嬉しそうなオーラが出てて
、わたしを更に緊張感と嬉しさの混じった不思議な感覚にさせる。
近くの公園のベンチに座りながら、光輝はラッピングされた飾りをとり、中からチェリータルトを出した。
光輝は食べていいの?と目で訴えてくるから、わたしは思いきり頷いた。
「味大丈夫だと思うだけど……」
わたしの言葉をよそに光輝はチェリータルトを頬張った、刹那。
ガチンと何かが邪魔する音が響いて、わたしは青ざめた。
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