act.1

2/23
前へ
/116ページ
次へ
秋場高広は高級だがいささか品の良くないスーツを身に着けて、尊大にテーブルの上に足を投げ出して座っていた。 辺りはにぎやかというより、耳を塞ぎたくなるような喧騒と熱気に包まれている。 皆が振り上げる拳の先にあるのは、四角のリングを囲む高い金網。 猛獣を閉じ込めておくためのものだが、今は猛獣の代わりに5人の男たちが閉じ込められていた。 各々がリングコスチュームを身に着け、筋肉隆々の腕を振り回し、自分のパワーと体力を、回りのギャラリーに鼓舞している。 その金髪青い目のマウンテンゴリラのような男が大半の中に、ひとり東洋人が混じっていた。 身長こそ他に遅れを取ってはいないが、体つきは華奢。 ジムで鍛え上げられたいかにもな男たちの中では、いささか頼りなく見える。 それに格好も、Tシャツとジーンズという普通の姿だ。 垂れ目の優しげな顔つきから、このままLAでナンパでもしている方が似合いそうだ。
/116ページ

最初のコメントを投稿しよう!

177人が本棚に入れています
本棚に追加