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高広が足を乗せたテーブルの上に、
「アーノルドに1000$」
「じゃあ俺はジャンに1500だ」
次々と札束が置かれていく。
名前を呼ばれるたびに、該当する男たちが雄たけびをあげて、客に応える。
期待は裏切らないと、金を託した客へのアピールだろう。
瞬く間に積みあがっていく紙幣を、寝ぼけたような眼で、少し呆れたように眺める高広の前で、その正面の椅子に座る禿頭の男が、
「なんだ? ここの相場にびびったのか」
唇を横にひいただけの薄ら笑いを浮かべた。
ここのオーナーでもあり、賭けの胴元でもある男だ。
薄い唇の間に太い葉巻を咥えているのだが、慣れていないのか、声がくぐもっている。
ストライプのシャツの胸元に覗く金鎖も、芋虫のような指にくっ付いているゴツい指輪も、どれも呆れるほどに似合っていない。
高広は、それだけは変えられなかった、ラッキーストライクの箱から、一本タバコを取り出し、自分の口に咥えた。
「――いいや」
火をつけ、フゥーッと煙を宙に吐き出す。
「レートが一桁違うんで、驚いてたところさ」
そして、
「忍者に10万$」
無造作に札束をテーブルに放り投げた。
おおーっと辺りがどよめきに揺れる。
一桁どころか、二桁も違う高広のレートに、胴元が応えなければ賭けは流れる。
それは今夜の賭けの失敗を意味する。
禿頭の胴元は、その頭頂部を赤く染めた。
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