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やがて、
「……いいだろう」
そう呟きながら胴元が右腕をあげれば、会場中に甲高いゴングの音が鳴り響く。
「fight!」
マイクを持った実況が声をあげる。
同時に金網の中の男たちがぐるぐると、四角いリングを回りながら動き始めた。
ここは、肉体ひとつで大金を生み出せる場所。
金網デスマッチ。
出場者に賭ける方も真剣だが、戦う方も真剣。
今夜の勝敗は『dead or alive』。
生死を問わない、生き残り勝負なのだ。
金網の中の5人の男たちは、すばやく自分の対戦者となる顔を見回した。
そのうち4人は、互いに見知っている、このリングのレスラーだ。
どれも常勝を誇っている強者たち。
その中にひとり、今夜は毛色の違うのが混ざっている。
ひょろりと背の高い東洋人。
シャツとジーンズという格好もいかにも場違いで、何故この場に放り込まれたのか、本人もわかっていない風にきょろきょろと落ち着きがない。
それは猛獣の檻に閉じ込められた、まさに哀れなイケニエの風情で……。
客は常に流血を求めている。
誰にでもわかりやすい、血の犠牲者だ。
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