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私は今、白い闇の中にいる。
幽かに聞こえる妻の啜り泣きが、私の心に暖かく沁み渡る。
白く美しい感情が伝わってくる。
「もう、目覚めることはないかと」
無機質な音が壊れたスピーカーから聴こえてくる。
息を呑む音と、薄れいく咽び泣きの声。遠ざかる足音。
白い闇が心に広がる。私の”過ち”を掻き消すように安堵が私を包む。
これでよかったのだと。
私の罪が、妻を、その人を傷付ける前に私は完結するのだから。
最高のハッピーエンドではないか。
誰もが幸せで、誰もが罰を受けぬ。類を見ないほどの結末だ。
だからーー
そのくちづけは、在ってはいけないものだった。
深く。
永い。
狂おしい程のそのくちづけは。
白が黒に変わる。
ーー好きよ。
止めろ。
その想いは、言葉にならない。
ーー好きよ。
ヤメロ。
その願いは、届かない。
闇が。
黒い闇が。
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