第2章 先ずは同僚と同窓をマーク!

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 さくらが思い出話に花を咲かせようとした矢先に、しかし二人の間に割り込んできた女性がいた。 「さくら!」  その見知らぬ(?)女性の顔をしばし眺めてから、それが英語のクラスでやはり同窓だった斉藤美香であることに気づいたのだった。黒縁の眼鏡がトレードマークだった彼女の顔にはもうその眼鏡はない。 「レーザーよ。レーザーで近視を矯正したの」  美香はそう言うと、いかにも親しげに安西の背広の袖を掴んだ。綺麗にネイルされたその左手の薬指には、なんとダイヤが煌めいているではないか。 「実は私達、婚約したの!」  美香の言葉に安西は嬉しそうに目許を緩め、さくらは内心度肝を抜かれたが、狼狽をひたすら隠して慌てて微笑をこしらえた。 「知らなかったわ。おめでとう! で、いつ婚約したの?」  さくらの問いに二人が代わる代わる答えたところによると、どうやら安西と美香は昨年秋の同窓会で卒業以来久し振りに出逢って付き合い始め、この三月、大震災の直後に婚約を決めたらしい。 「ちょっと早過ぎるかな、とも思ったんだけれど、またいつ大きな地震が来るかわからないでしょう? だから、家族でいよう、って決めたの」 「それって地震がなかったら婚約しなかったみたいに聴こえるぜ」  安西が軽口を叩き、二人はツガイの小鳥のように幸せそうに見つめ合っている。  家族でいよう、ってコマーシャルソングじゃあるまいし、とさくらは心の中で大きな溜息を洩らす。やはり、あの大震災のせいで地殻変動が起きているのだ。  去年の秋に付き合い始めたということは半年で結婚を決めたということで、春子達のように八年間付き合ったカップルも、出逢って日が浅いカップルも、皆結婚に流れている!  さくらは再び二人を祝福してからその場を離れ、先ほど見かけた竹内という先輩の姿を必死で広い会場に追い求めた。今この時に動かないと、リーチしておかないと、きっと彼も誰かに即刻取られてしまう、という強迫観念に襲われる。  パーティー会場の天井から優美なシャンデリアがぶら下がり、グラスを手に歓談に興じている背広姿の男達の中に竹内の顔を探しながら、さくらは焦燥感に捉われた。  会に集っている同年代の女性同窓生達が気のせいか皆それなりに美しく見えるのだ。
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