第3章  ひたすら女磨き!

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 節電か何か知らないがおでんを調理する熱のせいもあるらしく、この店は暑過ぎる。さくらは不機嫌な顔でバッグから扇子を取り出すとこれ見よがしにあおぎはじめた。  ジョーは相変わらずカウンターの中で白菜ロール作りに熱中している。彼は小さい時から何か凝りだすとそれ以外のことに関心が向かなくなるのだ。こういうのを単細胞と呼ぶに違いない。  諦めて、さくらは先ほど駅中の書店で購入したファッション誌をバッグから取り出し、カウンターのおでん皿の横に置いてページをめくりはじめた。フムフム。 「何を一生懸命読んでいるんだ?」  頭上でジョーの声。彼は昔からこちらが何かに熱中していると詮索しに来るアマノジャクなやつだ。 「結婚できる服、の特集よ」  さくらは雑誌の特集記事から眼を離さずに冷たく答えた。そうか、やっぱり「男受けする服」というものがあるらしい。 「彼氏もいないんだから、先ずは、彼氏ができる服、だろう?」  笑いを滲ませたジョーの声音にさくらは顔を上げた。 「彼氏ができたって、結婚できないんじゃ仕方ないじゃない」 「でもな、物事には筋道っていうものがあるんだ。結婚ってのはできあがった物を店で買うのとはわけが違うんだから、先ずは好きな男と付き合って、それからの話だろう?」  ビールのグラスを傾けながら、彼の言う通りではある、とさくらは納得する。しかし、結婚どころかガールフレンドもいなくて女性の髪型の変化を言われるまで気づかない鈍感男だ。何を偉そうに、とさくらは言い返した。 「あのね、里子達と女磨きに精を出すことに決めたんだ。流行りの髪型と男達をうならせるような素敵なファッションで決めて、こっちを振り向かせるの。 もう七月なんだから年末の婚約(目標)まで残された時間は少ないわ。デートに行く服よりプロポーズしたくなる服こそが大事なわけ」  自分でもさすがに飛躍だとは思われたが、さくらは言い切った。 「じゃ、教えてやるけれど、普通の男ってのはね、ファッションを追いかけているような女は苦手なんだ」 「どうして? 男の子ってアイドルとかモデルとか、ビジュアル系が好きじゃない」 「何か誤解していない? アイドルの水着姿のポスター貼るのと、自分の彼女の話は別だろう? 
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