第3章  ひたすら女磨き!

10/15
前へ
/120ページ
次へ
 つまり彼はさくらの動向には全く無関心だったというのが事実であるらしく、こちらは彼と共に人生を歩むつもりだったのに、と悲嘆に暮れざるを得ない。  紀香と一緒にアスレチックルームを退出しながらさくらは窓際のトレッドミルを振り返ってみたが、男はまだ走り続けていた。 「まあ、有望株ではあるじゃない」  階下にあるコーヒーショップでパスタを食べながら、紀香が慰めてくれた。  せっかく運動して体重を落としたのだから、とアイスコーヒーだけを注文したさくらは失望(空腹)のあまり元気が出ず紀香の言葉にうなずく。 「それはそうね。でも出逢わないことには仕方がない。どうもアスレチック・クラブに集う男達ってナルシスト的じゃない? 身体を鍛えていざという時にヒメを救おうというより、自分を鍛えること自体に意義を見出しているみたい」  紀香が食べているミートソースパスタが美味しそうに見え、空腹にお腹が鳴った。 「さくら、そうかもしれないけれど、そこがいいんじゃない。昔の侍と同じ。 別に女性にモテようなんて浮ついた考えで修行に励んでいるわけじゃなくて、いざという時に主君のために戦い、そして家を守るために剣術や武術を研鑽するわけ」  人気テレビドラマのお陰で最近「にわか歴女」になり、侍こそが理想の日本男児! と語っている紀香はうっとりとした眼差しで断言する。  確かに、不甲斐ないヤワな男性が多く見受けられる昨今、自分の身体に鞭打ち、筋力、そして精神力を鍛える男達は称賛に値するに違いない。  しかし、主君や国のために戦うべき諍いもない平和な日本、男達は鍛えた体躯を女性を守り救うためにこそ使うべきではないか。 「いざという時に本領発揮ということだと、それこそ大災害でもないと出番がないわね」  さくらが軽口を叩いた時に、先ほど隣のトラッドミルで走っていた男性がカフェの入り口に顔を出してカウンターに並んだ。背広を着ているのでいささか大人しげな印象だが、間違いない。  さくらは「やっぱり私もパスタを食べることにする」と紀香に言い残すと、彼女の返事を待たずにカウンターに近づいた。  ここでランニングの君を、「人生のパートナー」を逃すわけにはいかない、との決意が勇気を奮い立たせ口を滑らかにした。 「先ほどはトレッドミルの使い方を教えて下さって、どうもありがとうございました」
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

156人が本棚に入れています
本棚に追加