第1章

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江戸にも町ごとに番屋はある。南北奉行所には定廻り同心が毎日巡回する。他に臨時廻り隠密廻りなどもあるが、徳島城下ではどうであろうか。  本来の目的は住民の動向を掴んでおくのが自身番の役目で、そのために番屋役人は町の有力者が持ち回りで当たっている。  陽が西の稜線に沈み、夜のとばりが町を覆うと、毛虫が這い出るように、どこからとなくうじゃうじゃと蝟集してくる。男オンナも昼間を上回るほどに、花街にすいよってくる。  軒灯に浮かび上がった彼らは、新町橋から富田町筋、さらに葛籠(くずら)屋町筋とわけもなく往き津つ戻りつしている。一本差しで着流しの好太郎をちらっと見るのだが、なかには鼻先を天に向け、ふんと笑って通り過ぎる男オンナもいた。  そんな中で一際目立つ男オンナがいた。身の丈五尺七寸は優にあろうかと思われる偉丈夫で、灯に照らされた顔は眉が濃く、引き締まった口元は意志の強さが滲み出ていた。  それと裏腹に身のこなしは柔らかで、浮き立つように軽やかな足取りで、つつ、つつっと進んでくる。番屋の横にたっていた好太郎に、狙いを定めたように寄ってきた。  その男オンナがにゃっと笑って前に立った。目が好太郎を誘うように瞬き、大胆にも好太郎の袖を引いた。  一瞬不意をつかれた好太郎は、どきまぎしたものの、その筋の気がないのに、あると見せかけ男の目に応えていた。手懸かりの一つにでもと思ったのである。 「ねぇ、お侍さん、敵娼(あいかた)探しているんでしょう。どうぞ私を慰めて……」  図体に似合わず涼やかな声だ。戦国時代ならいざ知らず、江戸時代も末期のいま、好んで男娼を買うほど女には不自由していない。しかし、お役目を引き受けた以上好き嫌いをいっている場合ではない。 「よし、慰めようではないか、その前に何処かで一杯やって行かぬか」 「嬉しい、お侍さん好き……」  男オンナはやにわに袖口から手を入れ、腋毛をいじってきた。さらにその手を伸ばし、好太郎の乳首をぴっと掴んだ。男オンナだけあって、男の泣き所をさりげなく責めてきた。あろうことか好太郎の陰茎がにわかに動き、まさかのまさかになった。 「慌てるな、床でゆっくり慰め合おう」  妙な具合になってきた。
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