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「好太郎、聞いてのとおりだ。我が藩百年の大計が揺るがんとしておる。孫太兵衛の申すには、働ける男子が極端に減り続けている。このままでは男であって男でない風太郎とやらが領内に溢れかえるであろうという」
藩公が薄笑いを浮かべて言った。
「ここ五、六年でそうなったのか、さらに男オンナが何故増えるのか。ここ十年余出生率ががた減りだ。なんとしもこの流れを食い止めねば、我が藩の未来はない」
そこで藩公が一息入れた。
「好太郎、そちに白羽の矢が立ったのは、これまでの働きからみて、お主ならこの難局見事解決できると信じた故だ。どうだ好太郎、わしの目の黒いうちに目鼻をつけて参れ……。わしもせいぜい大計のために頑張るつもりだ」
──殿はこれ以上頑張らなくていいのです。世子がひとり生まれるごとに、世継ぎ争いの火種が増えるだけ。
思わず好太郎は、胸の中で殿に向かって悪態をついていた。
──半陰陽であろうか。
いわゆるふたなりという奴なのか。一口でいえば男と女の道具が隣りあわせか、それとも前後に付いたものだ。好太郎でもこのぐらいの事は分かる。
といってそれが領民の一割にもなるとは聞いたことはない。奇形であろうがそれが生まれる確率は微々たるものだろう。何万人にひとり、いや何十万人にひとりあるかないかといったところであろう。
それが阿波では一割もいるという。好太郎は生まれも育ちも江戸である。一体、阿波とは如何なる国か、ちらっとなら見るのは面白いかも。
「好太郎、五日後に国表への船が出る。それに乗れ」
「船……」
「どうした好太郎、船は嫌か」
「伯父上、わたしが船に弱いのを知ってるくせに!」
「おお、そうであった。大川の舟遊びでさえ反吐を吐いたな。剣と女には強いが舟にはからっきし弱かったのう」
「伯父上もひとが悪い。殿の御前で知られたくないことまで……」
「なぁに好太郎、儂とてそちの縁者だ。船での参府は往生しておる。これは我らの家系だ、そなたの好きにいたせ」
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