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そうと決まったところで大叔父の藩主が奥へ消えた。伯父の江戸家老がやれやれと膝を崩し、好太郎ににじり寄ってきた。
「公江どのが付いて行きたいと言っておった。連れていっても構わぬぞ。今度のお役目は斬った張ったはそうあるまいて」
「昨夜、父御と一緒に参っての、泊まって行った。何気なくそちが国表へ赴くと口を滑らせてしまったのよ。そしたら母御の墓参りが致したいと申しての。父御が好太郎どのに迷惑が掛かるといっての」
そこで加嶋孫太兵衛が頭をかいて一息入れた。
「父御はたとえ危険が少ないとはいえ、万に一つということもある。祝言は一年後だ、辛抱せいと一喝されての。さめざめと泣いてしまっての。……とうとう、父御が折れての、そちがいいと言えば好きにせいということになった。今頃は嬉々として旅支度中であろうよ。お主も罪な男だな、もう、出来ているのか」
と、江戸家老が好太郎の膝をつねったものである。
──伯父上まで男オンナに変身!
一瞬どきっと慌てたが、それ以上のことは何もなかった。地続きではないとはいえ、国表の流行り病いが江戸表まで飛び火してこないとは限らない。
藩主は参勤交代で二年に一度は国許へ帰る。家臣のなかにそんな病いを患って戻る者がいても不思議ではない。
男にも変身願望はある。江戸でもたまさかに男オンナが町をねって歩いているではないか。
「またまた余計なことを。いま殿がいったじゃないですか。女好きは我らの家系だと。祝言あげるまでは自由の身をたのしみます。旅こそ我が世の春ですから」
「それでだな、船酔いなどと言いおって」
「如何にも国表に着けば何が待っているやら。大きな渦に巻き込まれて命を落とすやも」
「そうだな、こたびのお役目は尋常ではないかも知れん。相手が見えぬだけに慎重に事を運ばねば、公江どのには役目の大事を申して思い止まらせよう」
「そうしてください」
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