第1章

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 悪友うち揃っての伊香保詣では湯女観音菩薩を拝む魂胆だった。練三郎の口癖だが、(何事も溜めすぎは体に悪い、ほどほどのところで放熱しないと、弓の弦だって折れる)なのだ。 「それではじゃじゃ馬どのを今日は軽く揉んで差し上げようか」 「軽く揉んで差し上げるなんて、好太郎さんなんて嫌い!」  珠美が真っ赤な顔になって奥へ消えた。  治療室を覗くと練三郎と目が合った。 「あとで話しがある」  といい、珠美の後を追って客間へ行った。将棋の腕は珠美がはるかに上だった。好太郎が初めて駒を握ったのも、珠美に無理矢理せがまれたからだった。将棋が嫌いという訳ではないが性に合わない。 「もう、好太郎さんの駒、並べてあります」  手回しの良いことだ。珠美は先程のことは忘れたのか、嬉々として打ち込んでくる。気合いの入った駒音に、対局を待ちかねていた気の昂まりが伝わってくる。留守中の相手を探してやらねば……。そんなことを胸の中で呟いていた。  半刻で三局指した。そんなところへ練三郎が入って来た。 「珠美、夕餉の支度ができたら知らせてくれ」  珠美が渋々客間を出た。 「話しって何だ?」 「伊香保、行けなくなった」 「どうしてだ」 「伯父上の心配性がまた始まった」 「どういうことだ」 「国表に行くことになった」 「急な話だな」 「ああ、大伯父からも頼まれた。断るわけにはゆかなかった」 「面倒なことか」 「それがどうも良く分からぬ。伯父も殿も藩の存亡に関わることだという。それが何故、男オンナと関わっているのか、もうひとつはっきりしない」 「男オンナとはどういう事だ」 「伯父の申すには、国表で半陰陽つまりふたなりが、異常発生しているとのことだ。瓜や茄子じゃあるまいしといったのだが、真面目な顔で半陰陽だといった。そんなものが異常に現れるものなのか」 「藩屋敷でもその話しは聞いた。まあ、ふたなりが生まれるとすれば、何万人にひとりくらいの確率だな。おそらくふたなりではないな。何故なら人為的としか考えられないからだ。考えられるのは男の陰嚢、つまりふぐりを切除し、睾丸を取り捨てる。この玉が二つないと陰茎に力が漲らない。そうなると挿入すらできなくなる。日が経つほどに男性機能が低下し、体は女性化する。多分、虚勢手術が組織的に行われているのかも?」
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