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「あのー、大丈夫ですか?」
「……空腹で死にそう、です……」
安否を問う言葉に対して返ってきた女性の答えは、行き倒れを示すものだった。
誠都は、張り詰めていた緊張感のようなものが緩んだ気がした。失礼かもしれないが──思った以上に重大な事件ではなくて、内心どことなく安心したのである。
もしこの人が血まみれで倒れていたりなどしたら、それこそパニックで誠都には何ができていたか分からない。
「……どうか、食べ物をお恵みいただけないでしょうか……」
「……ちょっとすぐそこで食い物買ってくるんで待っててください」
お人好しかそうでないかなら、前者の部類に入る誠都。それでなくとも、誠都には「会って言葉を交わした以上はその人を助けなくてはいけない」という義理にも似た気持ちがあった。
とはいえ、完全に安心しきるわけにもいかない。
万が一──厘毛の可能性ではあるが──、誠都がモタモタしていたせいで女性が餓死する可能性だって、無きにしもあらずなのだ。
そう考え、少し進んだ先にある光源──「HIGHSON」に向かって、誠都は急いで駆け出していった。
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