託された者

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託された者

「…春蓮"様"。連れてきてしまい、申し訳ありません。 貴女にどうしても承諾して頂きたいことがございましてな…。」 ここは、文官長の執務室。 来客用のソファーに春蓮を座らせ、逃げられないように部下を配置している。 彼女を連れ去ったのは、雲稠その人だ。 「あの黎樹様では、会話にもなりませんのでな。 春蓮様なら、お話を聞いて下さり、快諾を得られると思いまして。 ……早い話、早急に我に"大臣王"の座を受け渡されよ。 黎樹様がいなくなれば、貴女は大臣王とは名ばかりの娘であることにかわりありますまい。」 薄気味悪い、乾いた笑いを見せる雲稠。 対して、春蓮は全く表情を変えない。 口は閉ざしたままだ。 「貴女があまり言葉を発しない方なのは、重々存じ上げております故…。 無言を承諾と取らせて頂いてもよろしいですかな?」 勝手に話を進める腹積もりらしい。 春蓮は静かに瞳を閉じる。 ……そして、寡黙な彼女は一言告げた。 「…あなたに黎樹を理解することは出来ない。」 それが、無駄に長い前置きをした雲稠への答えの全て。 彼女は、静かに怒気を含めた瞳を彼に向けていた。
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