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信念は最後まで
……更に五年の時が経った。
この五年も、最初の五年と変わらない光景があった。
ただ、大臣王の玉座に座っている者が変わっただけ。
玉座に所在なさげに座る春蓮。
いつもと変わらない黎樹と賀竜が両脇にいる。
言葉にも表情にも表れないが、春蓮はこの一瞬一瞬が、幸せに思えた。
小さな薄い小説本を買うのも精一杯だった自分に、たくさんの書物を与えてくれた黎樹。
ガサツな中に、優しさ溢れる賀竜。
二人の会話が心地好かった。
永遠にこの瞬間の中で生きていられたらいいのに。
……その願いは叶えられることはなかった。
ある日、いつもと違う空気に春蓮は戸惑いを隠せないでいた。
「おい!春蓮!黎樹を見なかったか?!」
春蓮は首を横に振る。
そう、いつもの時間に黎樹が現れない。
一抹の不安を抱え、彼女は走り出した。
「ちょっ!待てよ!」
賀竜もついてくる。
…二人は息を切らし、黎樹の邸宅に来た。
いつもながら、静かな邸宅だ。
しかし、今日は何か違う気がした。
そのまま邸に入り、黎樹の部屋を目指す。
…ガチャリ。
扉の開く音が不気味聞こえた。
「…あれー?春蓮と賀竜じゃないか。どうしたの?血相なんか変えちゃってー。」
いつもの飄々とした口調で黎樹が出迎える。
けれど、ベッドに横たわったままだ。
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