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葬儀の日、春蓮はただ涙を静かに流していた。
賀竜はそんな春蓮を抱き締めてやった。
…いつも黎樹がしているように。
そこへ、喪に服した女性が現れる。
その人物の顔を見るや否や、絶句した。
"黎樹"が女性らしい格好をして、そこにいる…。
いや、そんなわけはない。
今こうして、棺の中に彼女がいるではないか。
「…あなた方が、春蓮さんと賀竜さんですね?」
同じ声音だが、口調が違っていた。
黎樹は絶対に敬語なんて使わない。
「あの子を…娘を看取って下さり、ありがとうございます。」
そう彼女は、国随一の美姫と謳われた賢王帝が寵姫・《黎娟(れいえん)》その人だった。
そして、黎樹の母。
「…この子は私どもの間に産まれてしまったがために、自分の道を自ら決めることが出来ませんでした。」
棺の中の黎樹を愛惜しそうに見つめながら。
「女として産まれ、余暉様のために男になろうとしました。
…周りには男と思われようとも、矢張、女としての自分も捨てきれなかったのでしょうね。」
賀竜が一歩前に出る。
「…黎樹は、言いたい放題でしたよ。俺たち、振り回されっぱなしでした。
………でも、俺たちはそんな黎樹が好きだったんです。」
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