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春蓮は黎樹と同じ顔の黎娟を見つめ、頷いた。
同じ顔だけど、この人は黎樹じゃない。
黎樹を産んでくれた人。
「アイツは、お父上のために、自分のためにやったんですよ。
後悔はしていないはずです。
"俺たちはそれを知っています"。」
黎娟は、二人の真剣な顔を見て、顔を綻ばせる。
「…あなた方がいてくれてよかった。」
そして、彼女は……。
『母上。僕は、父上や母上を想う以上に、春蓮を賀竜を大切に想っているよ。
かけがえのない存在だから。』
黎樹の声音で、黎樹の口調で。
春蓮は涙が止めどなく流れた。
賀竜は歯を食い縛った。
矢張、黎樹はこの人の娘なのだと悟った。
「…そういうことなのでしょうね。
あの子は、女にも男にもなれず、しかし、女でも男でもあった…。
これからもあの子のこと、宜しくお願い致します。」
微笑みなから、彼女は立ち去った。
…食えない性格は、母親譲りと言うわけか。
━その黎娟が息を引き取ったのは、それから一年経ってから。
黎樹は一言も、母親が死んでいるとは言わなかった。
最後のサプライズに二人は、涙ながらに苦笑した。
━葬儀のすぐあと、春蓮は壇上に上がっていた。
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