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受け継ぐもの
国民はざわついていた。
黎樹の死に動揺しないものはいない。
子どもから大人まで、彼女の存在が大好きだった。
だから、そんな黎樹が選んだ春蓮を誰も否定しない。
するものは、既に罰せられたのだから。
"黎樹の置き土産"。
それは、愛した春蓮と愛した賀竜が、少しでも穏やかにいられるように。
国民との信頼を築けるように。
それを胸に、寡黙な彼女が、生涯最後の一言を口にした。
『…私の愛する黎樹は永遠に王であり、私は生涯、彼女の影武者として皆に尽くします。』
これは、春蓮と賀竜二人の想い。
死する最後の瞬間まで黎樹を想い、黎樹のために国民に尽くす。
彼女は晩年、書き記したものを賀竜に見せる。
それは、黎樹との出逢いからの彼女のすべてが記されていた。
その中には、賀竜のことも。
彼女は、黎樹が女性だと知ったとき、複雑だった。
男性である賀竜に嫉妬していた。
でも、黎樹に口づけされたときに知ったのだ。彼女の想いを。
……彼女はどんなに苦しんだだろう。
どちらにもなれない自分を…。
最後の最後まで悩み、苦しみ…、そして、想いを伝えて散った。
ならば、私たちも果てるその時まで、彼女を想い続けよう。
……先に黎樹のもとに向かったのは、賀竜だった。
戦を忌み嫌っていた黎樹。
だが、避けられるはずもなく…。
深手を負った賀竜は、春蓮の腕の中で、黎樹を想い、果てた。
春蓮の目からは、止めどなく涙が溢れた。
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