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そんな彼女も、同じ年に死を悟った。
彼女は、それまでにまるでそこに黎樹がいるかのように、偉業を成し遂げていた。
飢えに苦しむ者はいない。
親を探して泣くこどもはいない。
誰もが笑顔でいようとする国になっていた。
最後に、彼女は"獏"に書状を、無言で手渡した。
春蓮は知るはずがなかった。
黎樹は伝えていなかった。
しかし、彼女は知っていたのだ。
"次代の大臣王"を。
黎樹に呆れながらも、黎樹を慕い、文官になっていた獏。
書状には、あるまじき文章が加えられていた。
『あなたは、黎樹と春蓮、賀竜にとっても我が子です。
父上と助け合って、黎樹や賢王帝の想いを引き継いで下さることを切に願います。春蓮』
彼が読み終える頃に、彼女は静かに息を引き取った。
獏は、父・蒼波の力を借り、更なる発展を目指す。
この国には、不可思議な純愛を貫いた王たちがいた。
黎樹の心の内は、誰も知らない。
春蓮と賀竜に出逢ったときから二人に恋し、自由気儘に振る舞っていた黎樹。
彼女の発する言葉は全て、嘘偽りなどなかった。
矢張、黎樹は狡く、食えない、愛すべき存在だったのかもしれない。
国民たちは無意識に、次を担う我が子に"黎樹"の話をするのだ。
《余りにも美しい、破天荒な姫王がいた》と。
━終焉━
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