出逢い

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出逢い

黎樹は着任してすぐ、城下町を意気揚々と歩いていた。 話し掛けられれば、笑顔で対応する。 子どもにせがまれれば、一緒に遊ぶ。 ただし、全力で。大人気ない大臣王である。 けれど何故か泣かれず、笑いあっている。 不思議な存在だった。 しかし、黎樹の目的は別にあった。 傍目には交流を楽しんでいたが、黎樹の目はある人物たちを観察していたのだ。 …黎樹の視界の先に、無表情でお財布とにらめっこをしながら、古本屋の前に佇む女性。 彼女は一週間置きにここにやってくる。 二回目でやっと、薄い小説を買う。 「やぁ、君は本が好きなのかい?」 彼女は黎樹に目を止めて、少ししてから頷く。 「…もっと沢山の書物を読みたくはないか?」 彼女はただ、静かに黎樹を見つめているだけ。 「ねぇ、君。名前は?僕は黎樹だよ。」 寡黙な彼女は、呟くように答えた。 「…春蓮。」 これが、春蓮との運命の"出逢い"。 寡黙で、全く表情の読めない美人。 黎樹には彼女の存在が必要だった。 四週目にやっと、同行の承諾を得る。 …静かで、しっかりとした頷きによって。 この国を変えるには、欠かせない存在になりうる女性。 そう、確信したからだ。
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