3人が本棚に入れています
本棚に追加
黎樹は春蓮に、楼(文官たちの集う、城みたいな職場)の書物庫を案内した。
「さぁ、好きなだけ読むといい。知識はいくらあってもいいからね。」
黎樹にはもう必要のない物ばかり。
しかし、彼女には必要な物だ。
黎樹の脳には、全ての書物の知識が備わっている。
そして、それ以上の知識も。
「…いつか、君のような人たちが好きに知識を得られる時代が来るといいよね。」
聞こえるか聞こえないかの小さな呟き。
きっと、着任してから初めて、本音を語ったかもしれない。
そんな黎樹を、春蓮は静かに、ただ静かに見つめていた。
「…ちょっと城下町に遊びに行ってくるから、読み倒しちゃっててね。」
春蓮を残し、黎樹はまた、城下町へと向かっていった。
……静寂のみが、支配する。
彼女は一冊手に取ると、微かに微笑みながら捲り始める。
……隅で読んでいると、話し声がした。
「…大臣王が、見ず知らずの娘を連れてきた?何とも傍迷惑な…。
まぁ、娘一人いたところで何も変わらんだろう。
所詮、女だしな。丸め込めばいい。
しかし、何故賢王は黎樹様を指名されたのか。
学院一の秀才であろうとも、出時が不明だと言うではないか。」
…春蓮は顔を上げて、声のする方をただひたすら見ていた。
最初のコメントを投稿しよう!