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「あなたは僕の数少ない理解者で友達です。この街にあなたが来ることになったのもきっと何かの縁だ。だから、あなたがまた怪異と関わろうとするときは、一人で抱え込まずに必ず私に声をかけてください」
八十国もまた、今までの人生で様々な怪異と出会い、いろいろなものを得て、失って生きてきたのだろう。
自身のことを多くは語らない八十国であったが、不思議と信用のできる人間であることは伝わってくる。
バー妖を出て自宅に帰る道の途中、僕はふと気になって昨夜のリニア建設現場に立ち寄った。
現場は警察によって立ち入り禁止の黄色いテープが張られ、数人の警察官が警備に当たっていた。とても中に入れる状況ではなかった。しかもニュースで流れた通り、現場近くの監視カメラで僕自身の姿を捉えられている。不用意には近づけない。
その様子を横目で確認しながら、現場を挟んで反対側の歩道を立ち止らずに通り過ぎようとした。進行方向に視線を戻すと、人影が目に入った。間違いない。
海原十月だ。
「店長?」
こちらから声をかけるより早く、海原がこちらに気づいて声をかけてきた。
周囲は暗かったが、その声でなんとなく伝わってくるものがあった。
海原十月は、泣いていた。
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